アラモアナセンターの白木屋内にあるベーカリー、「ブルク」。北海道・札幌で1977年に誕生したブルクは、パン職人の竹村克英氏によるドイツパンが長年愛され続け、2013年7月、海外初となる店舗をハワイにオープンしました。日本から上陸したこだわりの味はロコにも親しまれ、お店はいつも常連客で賑わっています。そんなブルクのハワイ店代表を務めるミホ・チェさんにお会いし、日本の飲食店を海外で展開するビジネスについて、お話をお聞きしました。
ミホ・チェ
日本の外資系航空会社で10年ほどレベニューマネージメント&インベントリーコントロールを務める。その後、早稲田大学にて「グローバル・サービス・ビジネス」を専攻しMBAを取得。大手日系シンクタンクでの食品系専門コンサルタントを経て中国・上海へ移住。日本発祥のなめらかプリンを主力商品とした日系スイーツブランド「Mvuke Tokyo(ブーケ・トウキョウ)」の立上げ事業に携わり、約2年間で42店舗まで店舗数を拡大した。2014年3月、ブルクハワイ代表取締役社長に就任。
──こんにちは! まずは、ミホさんがブルクのハワイ店代表就任に至った経緯を教えてください。
ミホ・チェ(以下ミホ):ハワイに引っ越す前は中国・上海で3年ほどスイーツ事業に携わっていたのですが、妊娠を機に当時空気汚染の問題が深刻だった中国からの撤退を決意しました。ちょうど同時期に、ブルクの会長で20年来の友人である丹山東吉さんが、ハワイ店舗の管理のためにハワイと日本を行ったり来たりする生活をしていたので、私にその役割を任せてくれないかと自分から申し出たんです。
──みなさん国際的スケールで繋がっていますね! 上海で行っていた「スイーツ事業」とは、どんな仕事ですか?
ミホ:日本発祥のなめらかプリンを中国でブランド化して製造販売する仕事でした。オーナー(投資家)のひとりの「この事業には絶対女性の経営者が必要」という一声が、私に本事業に一緒に携わらせてくれる機会をくれました。それからパティシエさんの元で勉強を始め、中国の原料を使用しながら日本にほど近いクオリティと味を再現しながら色々なフレーバーの商品を開発していく課題に取り組みました。商品そのものの美味しさと、なめらかプリンというニッチなコンテンツが、結果的に...バカ売れしたんですよ。現地のパートナーにはとても恵まれていましたね。当時25歳だった若手社長を筆頭に、みんなで本当によく働いたし、彼らから学んだ事はとても多かった。私は日本のブランド基準を満たす品質管理や、現地ならではの商品開発など行い、どんどん大きくなる工場をマネージメントしながら、マスプロダクションを確立していくことに取り組んでいました。
──壮大な話に聞こえますが、短期間で「バカ売れ」まで至るというのは、具体的にどのくらい売れたのでしょうか。
ミホ:そうですね、2011年10月1日に上海で第1店舗をオープンし、私が実務から退いた2013年12月の時点では、中国で42店舗ありました。その頃、中国の平均時給は日本円にすると約200円。そして、ひとつ400円以上の価値があったプリンが、1日約2万個売れたんですよ。時給2時間分の高級プリンがこんなに売れたのは、何よりも味が美味しいというのはもちろんのこと、中国の人たちの生活水準や価値観が急激に向上し変化した時期に我々のコンテンツがうまく刺さったんだと思います。中国にはそれまで、焼いたプリンはあったけれど、蒸すことで舌触りを良くする「なめらかプリン」はなかったんですね。中国の人たちの生活に余裕が出てきたタイミングで、私たちは、「別腹」やギフト、自分へのご褒美といった新しいライフスタイルを売ることに成功したんだと思います。美味しい高級プリンを食べることは、自分たちの生活の豊かさを実感する喜びにも繋がっていたんだと思います。出店をこれほど早くできたのは、建設ラッシュの中国でバブルの波に乗れたからでしょうね。次々に建つ新しいショッピングモール内にどんどん小売店を出店していきました。
──なるほど、すごいことですね。海外でお店を営むにあたり、大変なこと、または大事なことは、どんなことですか?
ミホ:大変なことはやはりサプライですね。日本には当たり前のようにあるものがなかなか見つからない。または存在しないんです。たとえば、パン屋と言えばパンを取るトングが絶対必要なのですが、パンを潰さないように取口が広く開くバネのあるトングがハワイでは売ってないんですね。仕方なく、日本から取り寄せながら対応してますが、使い勝手が良いのかよく盗まれてしまって閉口してます。また、その国、地域、テナントとして入っているショッピングモールごとのレギュレーションをきちんと理解することはとても大事なことです。あと、人の管理ですね。日本クオリティの高級な商品をブランディングするには、現地で雇ったスタッフにも清潔感のあるていねいな接客を教えなくてはいけませんよね。でも、たとえば中国では、「せめて2日に1回はシャワーを浴びましょう」と話すところから始めたりすることがありました。昔は水があまりきれいではなかったから、「洗うとよけい汚れる」という固定観念があったり、集合住宅の屋外に設置されたシャワーが冬には寒すぎたり...という背景があるからです。だから、頭ごなしに人をマネージメントするのではなく、細かいところに気を遣う日本文化の美しさを知ってもらうところから始めるというか。私たちがその人たちの暮らす環境を理解した上で、学ぶことの楽しさを教えることがサービスの向上に繋がります。私たちは、現地ではあくまでも外国人。そこには「日本のスタンダードが正しい」という基準はどこにもないわけです。そう思っているのは私たちだけで、世界はそうは言っていない。その国や地域が自分たちのことを受け入れてくれたことへの感謝を忘れず、日本の美味しさや日本文化の美しさ、商品の高いクオリティを伝え、会社として存続し、雇用を生みながら社会へ貢献していくことが大事だと思ってます。
──確かに...。育った環境の異なる人たちと一緒に働くことは、ハワイで暮らす多くの日本人にも共通していますよね。ブルクのハワイ店も、ローカルのスタッフを採用しているのでしょうか?
ミホ:はい、30名弱のスタッフがいますが、ローカルスタッフがほとんど。日本からのスタッフは、私とシェフがひとりですね。
──同じブルクでも、北海道とハワイというそれぞれの土地柄で特徴はありますか?
ミホ:そうですね、ブルクのハワイ店でも北海道の味を提供しているのですが、実は使う原料は日本からではなく、なるべくこちらで調達しています。現地にある原料のなかで一番いいものを選び、日本の味を作るんです。基本的な商品はすべて本店のレシピを忠実に守った上で、ハワイならではの商品開発にも挑戦しています。カルアポークやメロンパンを使ったフルーツサンドなんかは、ハワイ店だけの限定商品ですね。今後は、北海道からジャムや十勝の小豆などの原料も多く取り寄せ、新しいパンも増やしていく予定です。
──種類豊富なパンがありますが、なかでもミホさんのオススメを教えてください。また、ブルクの今後の展望をお聞かせいただけますか。
ミホ:私のオススメはブルクライヤーサンドイッチですね。社内コンペをして商品化した個性的な味もあって、どれも美味しいですよ。サンドイッチ用のパンはライ麦を含んだ北海道産100%の小麦粉を使用していて、モチモチとした食感もポイント! 今後の予定としては、このハワイ店をフラッグシップとして海外での店舗数を増やしていきます。先日、シンガポールのフランチャイズ・ショーにブースを出したら、トップの評価だったんですよ。それがきっかけで色々な引き合いをいただいて、シンガポール、台湾、タイ、ラオス、あとはもともと出店が決まっていたマレーシアのコタキナバルにも、2015年初旬に東南アジア初店舗のオープンが決まってます。
──5店舗も! それらの海外店舗がハワイを拠点に発信されていくというのも楽しみですね。最後にアロハストリートの読者へメッセージをお願いします。
ミホ:もし、「ハワイには美味しいパンがない」と思っている人がいるとしたら、ぜひブルクのパンを食べてみてください。北海道で生まれたパンの美味しさをローカルの人たちにも伝え、ハワイでの日常生活において「パンといえばブルク」という存在になれたらうれしいです。旅行者のみなさんも、毎日焼きたてを用意していますので気軽に立ち寄ってくださいね。
──ありがとうございました!
ほわっとやわらかい雰囲気に満ちたバリバリのキャリアウーマンという印象のミホさん。現在5カ月の赤ちゃんを育てるママでもありながらグローバルに働く姿は、同じ女性として憧れずにはいられませんでした。主夫業をこなす旦那さんとは、「私たちはこの形が自然」だそうで、幸せそうなオーラがとても魅力的! ミホさん率いる人気店ブルクの今後がますます楽しみです。