ワイキキ中心にある人気イタリアン・レストラン「タオルミーナ・シチリアン・キュイジーヌ」のエグゼクティブ・シェフ、三村浩之さんにインタビュー!美味しさの秘訣を探ります。
エグゼクティブ・シェフ 三村浩之
東京・赤坂にある「ピッツェリア・マルーモ」からシェフの道をスタートし、イタリア・フィレンツェで4年間経験と実績を積む。アメリカ・ニューヨークに渡った後、現在の「タオルミーナ・シチリアン・キュイジーヌ」に入り、2010年6月、エグゼクティブ・シェフに就任。フィレンツェで就労中には、「ラ・ロッタ・デル・ヴィーノ スローフード・コンテスト」のメインディッシュ部門で第1位に選ばれるなど、輝かしい成績を収めている。
──こんにちは!まずは、料理をはじめたきっかけと、イタリアでの修行時代のお話をお聞かせいただけますか?
三村浩之(以下三村):料理はなんとなく、いつのまにか始めていたという感じなのですが、昔から食べることは好きで、いいものを食べていたな、という記憶はあります。最初は赤坂の「ピッツェリア・マルーモ」で働き、その後、なんのあてもないまま学生ビザでイタリアへ渡りました。アメリカに住んでいた姉に、「行っちゃえばなんとかなるよ」って言われていましたが、そうでもなかったですね(笑)。イタリア語は「ここで働きたいです」という言葉だけを辞書で調べて、100件くらいはまわりました。最終的に働かせてもらった店「イル・ペッティロッソ」は、実際に食べて本当に美味しかったから、「給料はいらない、ここで働かせて!」って頼み込んだんです。「どうにかなる」って、こういうことか...と(苦笑)。そこの店主は、経営抜きにして、いい素材でいい料理を作ることにとことんこだわる職人肌だったから、僕にとっては夢のような世界でしたよ。イタリアではそこらじゅうで食材が採れるので、休憩時間には、ハーブやキノコ、アプリコットを摘みに行ったり。作った料理をとにかく試食する毎日を過ごしました。現在作る料理も、これまで食べて美味しかった料理の味を思い出しながら、再現しています。
──すごいですね。イタリアを夢見る日本人も多いと思いますが、実際はきっと厳しい世界ですよね。
三村:そうですね、せっかくイタリアへ行っても、日本食レストランで働く人も多くいました。言葉も分からず、経験もない日本人を雇うイタリア料理店を探すのは難しいし、貯金はそのうち底をつくわけで。海外では生きる力がないとやっていけませんね。あとは、経歴に箔をつけるために三ツ星レストランで働く人もいるけど、そこで3年間皮むきだけをしていても意味がないというか...。もうそういう時代じゃないと思うんですよ。僕はラッキーなことにディープなところまで携わらせてもらい、本当にいい経験ができました。
──なるほど...。なかでも思い出に残っていることはありますか?
三村:ええ、働いた店のシェフがとにかく素晴らしかった。チームで共同開発した「アンコウの香草ロール巻き」は、イタリア人のシェフが集まる「ラ・ロッタ・デル・ヴィーノ」で、1位を獲りました。地元産の食材を使った料理でイタリアのブランドを高めていこう、というテーマのスローフード・コンテストです。
──本場イタリアで第1位とは素晴らしいですね。ぜひこのお店でも食べてみたい!
三村:そうですよね。ハワイでも作ってみようかな、と思ったことはありますが、手に入る食材が違うから、そのメニューはどうしても同じ味に再現するのが難しいんですよ。ハワイでは、近海の白身魚や旬のフルーツ、野菜などローカルでいい食材があればそれを使いますし、アメリカ本土の方がいいものは取り寄せます。ここでは無理に地元産やイタリア産にこだわりすぎず、シンプルにいいものを厳選しています。
──では、シェフが一番好きな素材、また、それを使った料理をひとつ挙げるとしたら、何ですか?
三村:ひとつ...。やっぱり仔羊ですね。ここで仕入れているコロラド産の仔羊は、最初に食べた時にびっくりした食材です。いままで知っていた仔羊の味とは全く違ったんですよ。イタリアより断然、アメリカ・コロラド産。僕の知っているなかで一番美味しい肉です。ここでは、シンプルに炭火焼きにして、香草と一緒に盛りつけています。
──炭火焼き...美味しそう!
三村:ええ、この店のコンセプトでもあるシチリア料理は、イタリアのなかでも、素材の味が大きな決め手となる料理なんです。同じイタリアでも、北部ではバターやクリームを使ったり、中部では肉料理が多かったり、地方によりそれぞれ特徴がありますが、僕がフィレンツェで修行させてもらった店のシェフは、全土の料理法を知っていました。シチリアは、フィレンツェにいたころに訪れ、本場の料理を勉強しました。
──「イタリアン」と言っても、奥が深い感じがしますね。シチリア料理について詳しく教えてください。
三村:簡単に言うと、炭火焼きがほとんどです。味付けは塩、胡椒、オリーブオイルで。横には香草やレモンなどの柑橘類、ナッツを添えます。僕がイタリアの店でよく言われていたのは、「何を食べたか分かるようにしろ」ということ。つまり、なんとなく美味しい印象を残すではなく、何がどう美味しかったか主役をはっきりさせることですね。飾り付けのために本来ない方がいいソースを添えていたり、クリームで素材の味が消えてしまっているイタリア料理もあるけれど、シチリア料理のいいところは、素材の味が勝負なところです。焼き加減や塩加減で旨さが決まるんです。
──なるほど。シチリア料理って、なんだか究極の料理ですね...。
三村:そうですね。塩だけで、素材の香り、旨味、甘み、しょっぱさ、すべてを表現します。塩分控えめで、オイルを使わないヘルシー料理も流行っているけど、僕は反対ですね。僕は「マンジャーレ、カンターレ、アモーレ」っていう雰囲気で作ってますよ。「食べて、歌って、恋をして」っていうイタリアの言葉ですが、深く考えず、塩もオイルも、必要な分だけ入れて、シンプルに美味しいものを作る。イタリアはワインを飲む文化なので、ある程度塩分がないと、ワインには合わないですしね。トレンドとは違うかもしれないけれど、こんな店があってもいんじゃないかなって。だからこの店のシェフたちには、必ずすべての料理を味見するよう徹底しています。レシピ通りに作って終わり、というレストランもありますが、最後は味覚が頼りですから。ちなみに、塩は、ハワイ島産のコナシーソルトを使っています。海洋深層水の塩なので、ミネラルが豊富なんですよ。
──シンプルだからこそ、培ってきた味覚と経験が仕上がりを左右する、というわけですね。
三村:そう、そこですよね。歴史のある料理だから、そこに日本人の感覚を入れたり、余計なものを加える必要はありません。人種や育った環境がどうであれ、料理は美味しいかまずいか、それだけですよ。日本の寿司にも共通しているものがあると思いますが、何もアレンジせず、シンプルな美味しさを極めるだけです。僕は日本人だけど、世界でやってきたから気持ちは日本人ではありません(笑)。ここではシェフやスタッフのバックグラウンドがみんな違い、いろんな意見があって面白いですよ。その方が、世界中から集まるお客さんを満足させられると思います。
──なるほど、奥深い。ところで三村さんは、いわゆるシェフ体型ではなく、かなり引き締まってますよね。なにかトレーニングなどしていますか?
三村:いや、仕事いっぱいしているんで(笑)。働き者です。コンディションを整えられないのは、プロフェッショナルじゃないですからね。体調はいつもベストな状態にするよう、気をつけています。
──さすが...!三村さんが率いるタオルミーナの料理は、じっくり時間をかけて味わいたいです。最後に、アロハストリートの読者にメッセージをお願いします。
三村:イタリア料理を食べたくなったら、うちに来てください。イタリア料理はこういうものだって、分かると思います。
──ありがとうございました!
こだわりの絶品料理を生み出すエグゼクティブ・シェフ、三村さんは、ゆっくりとていねいにインタビューに応じてくれました。やさしくホワっとした雰囲気で周りを和ませながらも、確固たるプロフェッショナリズムを感じました。シンプルだからこそ、奥が深いイタリアのシチリア料理...。心して味わいに行きたいです!